<2002.6.15> あの稜線を越えて

・・・・・晴れ(源頭部はガス深し)・・・・・


”ハア々”と 喘ぎながら急な山肌へと貼り付き

ジリ々と進む フエルト底の地下足袋はグリップ

が定まらず ズルズルとずり落ち出し身の確保に

草木を掴む両腕の握力も もう心許無く成る・・・

その遥か足下では 巨岩を噛む流れが"ザワ々”

と 音を立て響き 目線を頭上へ移すと入渓時に

立った筈の稜線が木々の間から 僅かに零れ見

え始める・・・。

岩魚は小さかった
そして先程から辿るこのルートは クロ(カモシカ)によってよく踏み込まれた獣道で 時にこれは進退窮まる

とんでもない処へと導く事の多い代物なのだ  本当にこのルートでいいのだろうか! 汗と草木の雫により

グショ 々と なってしまったシャツの袖で顔の汗を拭う・・・・。

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

標高1000mを越える入渓地点にて 落差が有り

深く切れ込んだ 今回向かう谷の入り口へと立つ

日本海方面より 流寄せ始めた湿った空気により

白いガスへと覆われた渓へと足を踏み入れる

出会いから早くも谷を左手に見送り 尾根伝いの

大高巻きにそのルートを選んだ かなりの際どい

場所も踏み跡を頼りに ピークへ向け登り続ける

フト気がつくと 目的の谷はどん々下方へと追い

やられ 高度を増して行く・・ 立ち木を掴み身を

急斜面へと乗り出し覗き込む 思い切って草木を

頼りの 落差100m程の下降を始める   苔で

滑りやすい最後の数mは ロープを出しての突破

と成った。   ”やれ 々!”

始めて立った源流部は 大岩が連なり多くの滝を

作り 我々の前にと立ちはだかる 人の踏み跡も

まるで残らない 流倒木の重なる荒れた世界へと

続いて行くようだ。

ガスの切れ出した源流部入口

源頭にて一服
しかし岩魚は いまいち薄いようで 人影に驚き走る魚影の確認も少ない 山屋沢屋さん達と違い我々は

岩魚の確認が第一の 言ってしまえばしょうもない釣師で やはり魚の顔を拝まないと面白く無いもんだ。

今回目的の地で有った 源頭二又へと立ち 差し出されたビールを飲み干しながら この遡行の切り上げを

決断し告げる・・・。  釣上るとき目に付いていた 張り出す痩せ尾根へと取り付き登り始める 変わらなく

覆い尽くすガスは 目標地の確認を遮るが 時に

それも 気紛れな強い風に押され一時 自分達の

置かれた身辺を見渡す事が有る 視線を対岸へ

向けるとそこは 岩板が垂直にそそり立ち とても

人間の近寄る事を許さないだろう。

幾度か我々の気持ちを弱気にさせ始めた 


何!  もう少し もう少しで稜線へと届くさ。

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下流部のヤマメ
その後釣足りない我々は 下流部のヤマメの釣り場へと車で向かう 初夏を思わせる強い日差しを受け

食べ頃サイズのヤマメを握り 源流方向へ顔を起すとそこは 未だ白く深いガスへと覆われたままで

そそり立つはづの 峰々の姿を望む事は叶わなかった。


・・・ もう一度あの源頭へと立つ時が来るのだろうか。 ・・・

                                                   OOZEKI